★ 矯正と顎関節症
顎関節症は噛み合わせによっておこることがあります。あごの関節で口を大きく開けたり噛み締めたりした時に痛みを感じたり、関節で音がしたりするなど、ひどくなると口が開きずらくなったり大きく開けられなくなります。またそれに伴い、頭痛、首や肩の痛み、耳鳴りなどの症状も起こることもあります。しかし、噛み合わせがすべてこれらの症状に関係しているわけではありません。噛み合わせに問題がなくまた顎関節に症状の無い健常者においても歯の噛み合わせとあごの位置(顎関節)との関係を詳しく見てみるとズレがほとんどない理想的と評価される人は約25%くらい(4人に1人)という報告がなされています。これは逆に言うとと無症状であっても数%の人は歯の噛み合わせと顎関節の関係にズレが生じ、潜在的に問題を抱えている可能性があるということです。必ずしも、きれいな歯列(歯並び)=正しいあごの位置、ではないということです。従って、噛み合わせに不正や重大な問題のある矯正治療患者に対してはより慎重な対応が求められるのは当然なことです。歯の移動を伴うなど、噛み合わせを変化させる矯正治療の場合、顎関節の状態を把握したうえでの診断が特に重要になります。従来の矯正治療では診断時に顎関節を考慮にいれず噛み合わせのみを見るため、治療目標も曖昧で、たんに歯を並べることが目的となってしまいます。また潜在的に隠れていた問題が治療中に発現した場合、治療計画の変更を強いられ治療結果に影響をおよぼすことも考えられます。当院では、顎位(あごの位置)、顎関節などの診査、診断にもとずいて、適切な顎位と正しい歯並びにより顎全体の調和をはかることを治療目標としています。そこで、矯正治療の前に、必要と思われる場合は適切な顎位の診断のためにスプリント療法を行います。その理由は、たとえ口腔内で上下の歯がしっかりと噛み込んでいても顎位が大きくずれていてはだめであり、噛み合わせを含むあご全体の機能を整えることを優先に考えスプリントを使用することで治療目標の明確化を計ります。
●スプリント療法
矯正歯科治療に入る前に診断の1つのステップとして顎関節の状態をチェックします。歯を移動しては並びをきれいにし噛み合わせを正しく治療していく矯正治療において、顎位は治療後の仕上がりや予後の安定性に大きく関わってきます。本来あるべき顎位が、不正な噛み合わせや不正な歯並びによる機能異常などによりズレを生じている可能性が疑われる場合、スプリントと呼ばれる取り外し式の装置を約6ヶ月間使用します。一般的には上あごの歯列に装着します。上下の歯の噛み合わせの接触を遮断し理想的な噛み合わせをスプリント表面に再現し、下顎の歯がそこに咬み合います。スプリントを調整することで顎関節に与える様々なストレスや有害と思われる要因が排除されると、本来あるべき顎位に顎関節が調和していきます。スプリント治療の目的は正しい顎位にもどしていくことにあります。正しい顎位は筋のバランスにも影響しますので筋の緊張や痛みなども改善します。この正しい顎位ではじめて診断が可能になり、その診断により治療計画が立案され矯正治療の開始となります。
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スプリント
普通は上顎歯列に装着される透明な
樹脂で作成された装置
☆顎関節症の治療例(一般歯科治療)
この症例は上下の歯がしっかりと咬みこむ顎の位置と、口を開閉させる時の顎の位置にズレが生じたことによる咀嚼機能障害です。本来は上下のすべての歯を修復するか、矯正治療のように噛み合わせを変えるなど、現状を全て改善することが必要で、最も理想的な治療法が求められます。しかし、現実的に受入れられるかは当事者の様々な理由、諸事情により妥協した治療法を選択せざるを得ないケースも少なからずあります。このケースは矯正治療や保険外診療ではなく健康保険内での治療を希望されました。
患者 61歳 女性
主訴 食べる時うまく噛めない 右顎関節の痛み
既往 3年前より夜間のみスプリントを装着している。
(今までに総合病院口腔外科2箇所に行った)
口腔内所見 前歯部わずかな開咬 補綴物多数
MRI所見 右 異常を認める 左 異常及び、骨の変形吸収像を認める
石膏模型等による所見 顎位のズレが大きい
治療経過
スプリント治療 1日の装着時間24時間を目標とする、6ヶ月使用
プロビジョナルレストレイション テンポラリークラウン、CR充填、形態修正、
咬合調整、この間もスプリント併用し顎位の ズレを解消
ファイナルレスレストレイション メタルクラウン、ブリッジ装着。
治療期間 12ヶ月
予後 良好